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聴神経鞘腫

【要点】
末梢神経を覆うシュワン細胞から発生する腫瘍であり、特に聴神経(特に前庭神経)に多く認められます。
脳腫瘍の約10%を占め、50歳代に最も多く認められます。
基本的には全摘出により治癒が得られる良性腫瘍です。
治療は大きさや性状、年齢などを総合的に考えて、摘出術、放射線治療、それらを組み合わせた治療、または経過観察を選択することになります。
それぞれの治療のメリットとデメリットを十分にご説明し、患者さんの希望に沿った治療を心がけています。
【症状】
腫瘍は小脳橋角部という小脳と橋(脳幹)の境目にできる隙間に発生します。
本来、この部位は顔面神経や聴神経、三叉神経といった重要な脳神経が走行しているため、それらが腫瘍により強く圧迫されることで様々な症状が出現します。
代表的な症状は次のものが挙げられます。
①聴力障害(高音優位)・耳鳴といった蝸牛神経障害(95%)
②めまい・ふらつきといった前庭神経障害(60%)
③顔面のしびれといった三叉神経障害(10%)
④顔面の麻痺といった顔面神経障害(6%)
⑤歩行障害や認知機能障害といった症状を呈する交通性水頭症の合併(4~15%)
基本的に腫瘍は緩徐に成長するため、症状もゆっくりと出現しはじめは気付かれないこともあります。
稀ですが突然に症状が出現する方もおられます。
【検査】
頭部CT検査、MRI検査、核医学検査、カテーテルを用いた脳血管撮影を行います。
特にMRI検査では、腫瘍と神経の境界が判別できるように画像処理を行います。
それぞれの画像検査の結果を総合的に評価し、安全な治療方針をご提供できるよう努めております。
【自然経過】
短期的には約半数は増大しない腫瘍です。
腫瘍増大速度は平均1.2mm/年と報告されています。
聴力低下が問題となりやすく、急速増大したものは5年後に、増大を認めなくとも10~15年後に聴力の低下が生じることが知られています。
自然に縮小することもあるため小さなサイズで増大傾向がない場合や、高齢者であれば経過観察も選択できるものと考えます。
【治療の必要性】
聴神経鞘腫が発見されても無症状で、かつ小さければ基本的には経過観察、または放射線治療(ガンマナイフ治療)が推奨されます。
ただし、ガンマナイフでは制御ができない大きさや、増大傾向のあるもの、症状が強くなったものについては摘出術を検討する必要があります。
また摘出することで、病理組織による確定診断が得られます。確定診断が得られるまでは聴神経鞘腫である保証は一つもなく、聴神経鞘腫と考えて経過観察していたが実は悪性脳腫瘍だった、という可能性もゼロではありません。
そのため、治療方針を決定する際には細心の注意を要します。
【治療方法】
摘出術と放射線治療、またはそれらを組み合わせた治療が一般的です。
①外科的手術
全身麻酔下に、可及的に全摘出を目指します。
ただし、全摘出が困難な部位、または全摘出により術後に合併症が高率に生じると予想された場合は、安全な範囲での摘出にとどめ、必要に応じて放射線治療を併用することが有効とされています。
手術の際は、手術顕微鏡、神経内視鏡、神経モニタリング、ナビゲーションシステム、術中血管撮影、超音波検査など多様なモダリティーを用いて安全な治療を心がけています。
全摘出で94~99%の腫瘍制御率が得られます。
亜全摘であれば局所制御率は40%と低下致しますが、放射線療法(ガンマナイフ)を術後に加えることで94%の局所制御率が得られることが知られています。
②放射線治療
摘出後の残存腫瘍や開頭術に耐えられない方や比較的小さな腫瘍に推奨されます。
放射線治療のよい適応は腫瘍の径が2.5cm以下とされています。
放射線治療の種類はガンマナイフ、サイバーナイフ、LINAC線源などがあります。
適応を守れば良好な成績が得られますが、合併として交通性水頭症や悪性転化(悪性脳腫瘍へ変化すること)の報告もあり注意を要します。